さまざまな自己欺瞞のうちでも、自嘲はもつとも悪質な自己欺瞞である。
それは他人に 媚びることである。
他人が私を見てユーモラスだと思う場合に、他人の判断に私を売ってはならぬ。
「御人柄」などと云って世間が喝采する人は、大ていこの種の売淫常習者である。
傷つきやすい人間ほど、複雑な鎧帷子を身につけるものだ。
そして往々この鎖帷子が自分の肌を傷つけてしまう。
しかしこんな傷を他人に見せてはならぬ。
君が見せようと思うその瞬間に、他人は君のことを「不敵」と呼んで
まさに讃(ほ)めようと しているところかもしれないのだ。
私はかつて、真のでくのばうを演じ了せた意識家を見たことがない。
三島由紀夫『小説家の休暇』
それは他人に 媚びることである。
他人が私を見てユーモラスだと思う場合に、他人の判断に私を売ってはならぬ。
「御人柄」などと云って世間が喝采する人は、大ていこの種の売淫常習者である。
傷つきやすい人間ほど、複雑な鎧帷子を身につけるものだ。
そして往々この鎖帷子が自分の肌を傷つけてしまう。
しかしこんな傷を他人に見せてはならぬ。
君が見せようと思うその瞬間に、他人は君のことを「不敵」と呼んで
まさに讃(ほ)めようと しているところかもしれないのだ。
私はかつて、真のでくのばうを演じ了せた意識家を見たことがない。
三島由紀夫『小説家の休暇』